「経営業務の管理責任者」は、一般に「経管(けいかん)」とも呼ばれるこの要件は、建設業を営む上で営業所技術者と並び、事業全体の経営的信頼性を担保するために不可欠なキーパーソンです。

今回は、この「経営業務の管理責任者」について、建設業法がなぜ彼らを求めるのか、そして彼らが果たすべき役割について解説します。

1. 建設業許可の「第一の基準」:なぜ経管が必要なのか?

建設業法は、建設業を営む者の資質の向上や、建設工事の請負契約、最終的には建設工事の適正な施工を確保し、発注者にダメージを与えないことを目的としています。

事業者がこの目的を達成し、社会的な信頼を得るためには、しっかりとした経営基盤が必要です。

この経営基盤の健全性を証明するために、国土交通大臣または都道府県知事は、許可申請者が「建設業に係る経営業務の管理を適正に行うに足りる能力を有するもの」であるかどうかを審査します。

この能力を証明する中心となるのが、申請者が配置する「常勤役員等」すなわち、事実上の「経営業務の管理責任者」です。

2. 「常勤役員等」の定義と求められる常勤性

この重要な役割を担うのは、会社の「常勤役員等」です。

① 常勤役員等の範囲

法人である場合:その役員のうち常勤である者がこれに該当します。

個人である場合:事業主またはその支配人が該当します。

ここでいう「役員等」は、取締役や執行役といった登記上の役員だけでなく、相談役、顧問その他どんな名称であっても、法人に対し業務を執行する者と同等以上の支配力を有すると認められる者も含まれます。また、取締役会の決議を経て、代表取締役から具体的な権限委譲を受けた執行役員なども「これらに準ずる者」として含まれる場合があります(ただし、事業の一部のみを分掌する執行役員などは除く)

② 「常勤」であることの重み

本社、本店等において休日その他勤務を要しない日を除き一定の計画のもとに毎日所定の時間中、その職務に従事(テレワークを行う場合を含む。)している者をいいます。

例えば、建築士事務所の管理建築士や宅地建物取引業者の専任の宅地建物取引士など、他の法令で専任を要する者は、原則として「常勤であるもの」には該当しません(専任を要する営業体及び場所が同一である場合を除く)。また、他の法人の清算人や、単独で代表権を持つ者も、当該申請者の常勤役員等とは認められません。

3. 証明すべき3つの経営経験

常勤役員等には、単に役員の地位にいたというだけでなく、建設業に関する以下の3つの分野で、具体的な業務経験が求められます。この「建設業に関し」という経験は、全ての建設業の種類を対象とし、業種ごとの区別がありません。

経験の分野具体的な業務内容
財務管理建設工事に必要な資金の調達、施工中の資金繰りの管理、下請業者への代金の支払いなどに関する業務経験(役員としての経験を含む)
労務管理社内や工事現場における勤怠の管理や社会保険関係の手続きに関する業務経験(役員としての経験を含む)
業務運営会社の経営方針や運営方針の策定、実施に関する業務経験(役員としての経験を含む)

4. 経験者がいなくても諦めない!補佐体制という方法

もし、会社の常勤役員等の中に、上記の経験を満たす者がいなかったとしても、許可取得を諦める必要はありません。

建設業法では、経験を持つ者を「直接に補佐する者」として配置することで、基準を満たすことができる場合があります。

この補佐者は、組織体系上および実態上、常勤役員等との間に他の者を介在させることなく、常勤役員等から直接指揮命令を受け、上記の財務、労務、業務運営に関する業務を常勤で行う必要があります。

この体制で申請する場合、常勤役員等及び当該常勤役員等を直接に補佐する者の証明書(様式第7号の2)や、両者の略歴書を提出することになります。

まとめ:経営業務の管理責任者は、会社の信頼の証

経営業務の管理責任者は、建設業界において、会社が安定して健全に事業を継続できるかを測る試金石です。彼らが持つ確かな経営経験と、それを支える常勤の体制こそが、発注者に対する信頼となります。

許可申請の際は、常勤役員等の略歴書や経験期間を証明する書類(登記事項証明書、確定申告書控の写しなど)を正確に準備し、この重要な役割を果たす体制が整っていることをしっかりと証明しましょう。